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2019.08.18 (Sun)
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お気に入りのソファの上に寝転がって、ぽふりとクッションに頭をうずめた。
カチカチという時計の音が何故かいつもより響いている気がして、クッションをかき抱くようにして胸の中に収める。
テーブルの上に載っている便箋は書きかけ―後、数行書き進めれば終わるであろうというものだったけれど―のまま、最後まで綴られるのを待っているようで。
真横に置いてあるキャップを外されたままのボールペンも無言で、使われるのを待っているようだった。
とどめとばかりに、淡いベージュの封筒までもが自分を促しているように見えて。
ああ、何だか色々末期だ、と口に出すことはなかったけれどはっきりと思った。
クッションをかかえたまま、最後の力を搾り出すかのように緩慢な動きでテーブルに向かう。
あー、とかうー、とか、意味のなさない言葉を数度発しながらも、ゆっくりと書かれていく言葉たちは、便箋の開いていた部分をすっかりと埋めてしまって。
何かをやり遂げた表情でばたりと背中からソファに倒れこむ、頭が柔らかいソファに当たった。
けれどそれで満足してはいけないよ、と封筒が私に語りかける。
分かってるよ、ここまで来たらやり遂げるさ、と返事を心の中で返して体を再度起こす。
しっかりと乾いてるのを確認したら便箋を丁寧に三つ折りにして、そっと封筒の中に忍ばせた。

「ん、それじゃ…行こうかな。」

黄昏時、私の大好きな色が世界に満ちる時間。
その色の助けを借りることが出来たなら、きっと全てが上手くいく。そう思えたから、階段を降りて服を着替える。
靴を履いたなら鍵をしっかりと掛けて、自転車と愛車の軽自動車の前で数瞬だけ迷って自転車を選んだ。
目的地への道のりはしっかりと頭に入っている、ある意味で焦がれていた場所なのだから。

***

「き、ちゃった。」
目的地に到着する頃には、予想通り世界は茜色に染められていく。
長くなった影を引き連れながら、目的の場所へと一歩一歩進んでいったのだけれど、どうしても後一歩が踏み出せない。
ここまで来た勢いを持続させろ、とか、別に悪いことをしに来たわけじゃない、とか。
頭の中でぐるぐると自分の声が回る、私ってこんなに勇気とか勢いとかが無かったっけ?
意を決して進もうと―それに、クラブ棟前でうろうろしている卒業生なんて、どう見ても不審者だ―した瞬間。

「彼方?なにしてんだ、こんなとこで。」

聞き慣れた、というより聞き覚えのある、声。
最後に聞いたのがつい最近だったからか、自然と私の口はその声の主の名を紡いでいて。

「槙野、くん?学園祭ぶりだねー、ってどしたの。それ。」

彼の手には、大きな袋。
その袋に記されている名は私も知っている、有名アイスクリーム店のものだ。
大きさから考えて、もしかして全部テイクアウトしてきたんだろうか。
ちょっとな、と袋の理由を濁す彼に深くは追求せず、すぅと息を深く吸い込む。
うん、大丈夫。だ。

「…でさ、槙野くん、これから防衛部行くとこ…だよね?どーぞどーぞ。」

期せずして塞いでいた入り口を、彼に譲る。
それから、先に進む彼のあとを追うように、そっとクラブ棟へと足を踏み入れた。
一度だけ行ったことのあるあの場所、道のりは直ぐに思い出せる。
その道のりの通りに進めば現れる扉は、何色にも染まっていない真白い扉。
当たり前のようにその扉を開けて中に入る彼の背に隠れるようにして、もう一度だけ深呼吸。

「おまえが、報われる時がきたよ。」

手に持った、ベージュの封筒にそっと声を掛ける。
そうしてから中から聞こえてきた明るい声に誘われるようにして、私はそっとその白い扉の向こうの世界へと足を踏み入れた。
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